~代理店法・外資規制・エミラティゼーション・労働法まで~
近年、中東市場への進出を目指す日系企業が増える中、特にUAE(アラブ首長国連邦)は中東・アフリカ地域へのハブ拠点として注目を集めています。一方で、現地における法規制やビジネス慣行には日本と大きな違いがあり、適切な法務対応が求められます。この記事では、日系企業がUAEで直面しがちな法務上の課題について、主要な論点を解説します。
代理店法(Commercial Agency Law)への理解不足
UAEで販売活動を行うにあたって、現地企業との代理店契約を締結するケースは少なくありません。しかし、UAEの代理店法は非常に保護的な性質を持っており、一度登録された代理店契約は、たとえ契約書で「解除自由」と定めていても、実質的には代理店側の同意なしには終了できないことがあります。
さらに、商業代理店登録をされた場合、登録エージェントには独占販売権や輸入差止権が認められることもあります。そのため、「とりあえず契約して市場をテストする」といった軽い気持ちで代理店契約を結ぶことは、後に深刻な法的リスクを生む可能性があります。代理店契約書の作成にあたっては、法務専門家による精査と、登録の有無に関する慎重な判断が不可欠です。
外資規制と出資構造の複雑さ
UAEでは、近年ビジネス環境の自由化が進んでおり、2021年以降、多くの業種において100%外資での会社設立が可能になっています。ただし、それでもいまだに「本土(Mainland)」と呼ばれる地域での事業展開には、エミラティ(UAE国民)スポンサーの関与が必要となるケースや、特定業種への外資参入が制限されているケースが存在します。2021年以前にメインランドで設立された法人の場合にはローカルの名義貸し株主を据えている場合も多く、その契約を解除する場合にも交渉が長期化することがあります。
また、フリーゾーンで設立した企業は、原則としてUAE国内市場での直接販売が認められていないため、ローカルディストリビューターの活用や本土法人の設立が別途必要になることがあります。
このような出資構造やライセンス制度の理解不足により、進出後に想定外の制限に直面するケースが少なくありません。設立前には、事業内容に応じた最適なライセンス形態と拠点選定を専門家とともに検討することが重要です。
エミラティゼーション(Emiratisation)への対応
UAEでは、政府主導でエミラティゼーション(国民雇用義務)政策が強化されています。特に一定以上の従業員規模を持つメインランド企業ではUAE国民を一定割合で雇用することが義務付けられています。
2023年からは、段階的に義務化が拡大されており、基準を満たさない企業には高額な罰金(年間最大10万AED以上)が科されるケースもあります。
日本企業の中には、現地人材の採用・定着に慣れておらず、制度対応が遅れがちなケースも見られます。今後は、人事制度の見直しや採用チャネルの多様化、給与・職務設計の工夫が求められます。
労働法対応の重要性とアップデートへの対応
UAEの労働法は、2022年2月に大幅な改正が実施され、すべての雇用契約が有期契約に統一されるなど、多くの点で制度変更が行われました。また、勤務形態(リモート、パートタイム、フレックスなど)も法的に明文化され、雇用形態の多様化が進んでいます。
これに伴い、日本企業が従来の雇用慣行をそのまま持ち込むと、現地労働局(MOHRE)とのトラブルや従業員からの法的請求を受けるリスクがあります。
たとえば、
- 解雇理由の明確化
- 有給・病欠の取得管理
- 試用期間中の対応
- 終業後の退職金計算
など、日本とは異なるルールが多数存在します。最新の法改正内容を踏まえた雇用契約書の見直しや運用ルールの整備が不可欠です。さらにフリーゾーンによっては従業員を独自の年金スキームに参加させるルールなどがあり、規制の把握・対応にはコストがかかります。
就業規則(従業員ハンドブック)の整備
実務上、雇用契約書だけでなく、社内就業規則(Employee Handbook)も重要な法的ドキュメントです。これを整備しておくことで、従業員との間の誤解や紛争リスクを最小限に抑えることができます。
特にUAEでは、宗教行事に伴う休日対応、服装規定(ドレスコード)、ハラスメントに関する内部通報制度、退職・解雇時の通知義務など、日本企業にとって馴染みの薄い項目についても、明文化が求められます。
UAEや各フリーゾーンの法律に準拠したハンドブックを整備することが推奨されます。特に多国籍な従業員を抱える企業においては、明文化されたルールの整備が企業の信頼性を高める一助になります。
労働訴訟リスクとその予防策
UAEでは、労働者は簡単なオンライン手続きで労働局に苦情を申し立てることができ、解雇や契約違反を巡るトラブルなどで企業側が不利な立場に立たされるケースも少なくありません。
日本人マネージャーが現地の労働者を叱責した言動が「侮辱」と捉えられ、労働局への訴えに発展するような事例も報告されています。文化的背景や言葉遣いの違いに起因する誤解が、結果として訴訟にまで至るケースもあるため、過去の事例から学ぶことも重要です。
また、解雇理由が「不当」と判断された場合、多額の損害賠償命令が下されることもあります。こうしたリスクを回避するには、日常的な人事運用の中で以下のような対策が重要です。
- 契約書・ハンドブックの明確化
- 人事対応の記録保存(Performance Review、警告文書など)
- 問題行動への段階的処分の徹底(Verbal → Written → Final)
- 解雇時の事前通知・正当な理由の証明
労働トラブルが発生した際には、英語・アラビア語での弁護士対応が必要となるため、事前に信頼できる法律事務所やコンサルタントと連携を取っておくことが有効です。
おわりに:専門家との連携がリスク回避のカギ
UAEはビジネスチャンスにあふれた魅力的な市場ですが、現地法務への理解と対策を怠ると、企業活動に重大な支障をきたすリスクがあります。日本とは異なる文化・法制度を前提に、進出前・進出後の各フェーズで専門家のサポートを受けることが成功への近道です。
当社では、会社設立支援から法務・会計・労務に関する実務支援まで、ワンストップでのサポートを提供しております。UAE進出や法務対応に関するご相談がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。